2007-01-01から1年間の記事一覧

記号系としての絵画の生成 (2)

絵画の生成に立ち会うために、私たちはさしあたり二つの問いを設けた。第一ににいう「不思議な交換システム」とは何なのだろうか、そしてでメルロが請け合っているように、身体がこうした構造を生きることを通じて、どのようにして表現としての絵画が立ち上…

記号系としての絵画の生成 (1)

メルロの遺作である珠玉の短編『眼と精神』、ふつうは絵画論として読まれているが、その実、彼の内部存在論をその構成主義的ダイナミズムにそくして明らかにした形而上学のマニフェストでもある『眼と精神』――モダニズムに呪縛された読者には難解そのものに…

という観念の生成について (9)

人間の有限性――苦 人間には、生来、世界に到来するあらゆる事象をとして受容しようとする心の傾きがある。この心的な習慣がという観念の生成をうながす動因にほかならない。 われわれは、古代文明における信仰や医術にその明らかな事例を確認することができ…

という観念の生成について (8)

記号システムとしての さまざまな伝統社会で呪術(magic)がおこなわれてきた。こう言うからといって、呪術は完全に過去形で語られるべきものではないし、いわゆる未開社会に固有なものでもない。呪術は現代社会にも形を変えて存続している。この事態を直視…

という観念の生成について (7)

記号システムとしての 記号とは、プラクティス(人間と環境との相互的交渉)が可能であるための必然的な制約である。人間は誰でも例外なく、他者とまじわり環境に適応するために記号機能の営みをおこなっている。 記号機能が発揮されることは、当然のことな…

という観念の生成について (6)

の生成とプラクティス ここで「プラクティス」と呼んだものは、人間と環境との相互作用の一切である。もちろん環境にすでに他者が住んでいるかぎりにおいて、この相互作用が他者によって媒介されている点を忘れてはならない。環境に帰属するおのおのの要素に…

という観念の生成について (5)

を希求する心の傾向性 ヘブライズムとヘレニズムの二つの古代に始まる精神世界においてすなわち記号という観念が誕生する経緯を垣間見ることが出来た。 ヘブライズムにおいては、は何よりも神の業や摂理を表意するものであった。その具体的形象には、虹や天…

という観念の生成について (4)

ヘレニズムの伝統 2 占いと医術とは同じ源に発しているとされている。ギリシア神話では、どちらもアポロンの属性である。例えばプラトンは、『饗宴』で「アポロンが弓術、医術、占いを発見した」(197a)という旨のことを述べている。神アポロンの代理をこ…

という観念の生成について (3)

ヘレニズムの伝統 という観念の生成にヘレニズムの伝統が大きな寄与を果たしたことは、すでに厖大な資料によって明らかにされている。記号学の分野でこの点を強調したのは、ハンガリー出身の記号学者トマス・シビォクであった。ここではG. Manettiが原資料や…

という観念の生成について (2)

ヘブライズムの伝統 問題の考察の手がかりをなぜヘブライズムの伝統に求めるのだろうか。この問いにかんしては、第一に、そうする積極的な理由を簡単に説明しておけば十分だろう。 そして第二に、じつはこの考察(知見)の範囲がじつは単にヘブライズムの伝統…

という観念の生成について (1)

記号学の歴史は人類の記憶とともに古い。しかし、研究の実情を見ると、という観念を基軸とするこの種の知的探究が、どのように始まり、どのように推移してきたのか、いまだにその全貌があきらかにされているとは言いがたい。 ここに記そうとするのは、文献学…

実在性のカテゴリーについて――記号主義から考える(8)

これまでの議論を整理してみよう。まず、記号主義がある種の構成主義であることは、明らかなことである。ブラックバーンの記述からスタートしながら、これを手直しすることで、私たちは、のカテゴリーを規定するひとつの要件に到達した。もう一度その規定を…

実在性のカテゴリーについて――記号主義から考える(7)

「想像的なものの非実在性」をサルトルがどのように把握したかを解釈するために、彼による意識の「静態学的」分類をとりあげよう。それによれば、対象が意識に与えられる様式によって、意識は三つの部類に分れるという。すなわち〈知覚〉(percevoir)、〈概…

実在性のカテゴリーについて――記号主義から考える(6)

実在性に関する現象学者の議論として、サルトル(J.-P. Sartre)の想像力についての考察は示唆するところが多い。同時に、この議論からは抽象的/具象的という対比概念についても教えられる点が多い。叙述の順序を変えることになるが、バシュラールの論点を点…

実在性のカテゴリーについて――記号主義から考える(5)

グッドマン『世界制作の方法』(みすず書房)の第5章の冒頭を引用することにしたい。 ときたま少々せっかちに「目の前にあるものが見えませんか」と私に訊ねる人がいる。まあ、見えるとも言えるし見えないとも言える。私には目の前の人々、椅子、書類、それ…

実在性のカテゴリーについて――記号主義から考える(4)

「記号主義」(semioticism)は筆者がグッドマンの形而上学を特徴付けるために翻訳(グッドマン/エルギン『記号主義』(みすず書房、1999);原タイトルはReconceptions in Philosophy and Other Arts and Sciences, London:Routledge, 1988. )の表題として…

実在性のカテゴリーについて ―記号主義から考える(3)

実在性をめぐる哲学論議はたいてい、実在していると主張されている何かしらのモノ(事物)あるいはコト(事実ないし事態)が本当に(really)存在しているのか、という設問をめぐってなされる。この問いに対して、肯定的な答え方をする(つまり、問題のモノ…

実在性のカテゴリーについて ―記号主義から考える(2)

グッドマンの記号主義へ話を進める前に、モンテーニュの懐疑に関するメルロ=ポンティ(Merleau-Ponty, 1908 - 1961)の解釈を確かめておこう。のカテゴリーについての理解を深めるためである。とがカテゴリーとしてどのような意味で違うかをメルロのモンテー…

実在性のカテゴリーについて ―記号主義から考える(1)

人は誰でも実在性(reality)のカテゴリーを受け入れている。この意味で――素朴であれ無意識的であれ――形而上学者でない人間は一人もいない。 例えば、あなたは目の前のテーブルの上に花瓶を見るだろう。そして「テーブルの上の花瓶が実在する」という命題を…

という知的探究を構想する

筆者が編集した『レトリック論を学ぶ人のために』(世界思想社)(amazon:レトリック論を学ぶ人のために)がこの5月に刊行された。本の構成を紹介しておこう。全体は酈部9章からなる。それぞれの章を一人の筆者が担当しているので、筆者も含めて9名の研究者の…

言語の実像を作り直す (9)

12 初発の言語音をという記号形態に比較することができます。ご承知のように、サンプルの種類は多種多様にわたっています。レストランのショウウィンドウをかざるメニューの見本、デパートの食品売り場でお客に供される新発売のパンの一切れ、植物標本、琵琶…

言語の実像を作り直す (8)

11 言語音の機能的生成の記述を続けることにします。 ♪ポッポ♪という言語音で鳩を捉まえた幼児には、模倣の生得的能力がそなわっていたと言うべきです。まず、この♪ポッポ♪という音声は、そもそもこの音声=言語音によってカテゴリー化され概念化された対象…

言語の実像を作り直す (7)

9 われわれは、言語音を以上のような三層構造の統合体として捉えたいと考えます。あるいは、言語音とはなのだと言いたいと思います。 こうした見地への最大かつ最強の異論があるとすれば、それはこの種のもの以外にはないでしょう。すなわち、消極的な言い…

言語の実像を作り直す (6)

8 再帰的動き>(recursive move)とは、記号系を別の記号系へと作り直す働き(remaking)です。知覚においては、知覚的素材としての知覚項を新たな知覚項へと作成し直すことであり、言語においては、言語的素材としての知覚項を別の水準の知覚項へと作成し直…

言語の実像を作り直す (5)

7 ここまでの観察をまとめましょう。言語音の生成は、知覚のさなかからその沈黙をやぶって音声が溢れ出すという事態だ、と言いうるでしょう。言語音はあたかも知覚項をなぞりつつその内容を確証するために創られたように思われます。ここにも記号系の再帰的…

言語の実像を作り直す (4)

6 表記法の問題を主題的に取り上げる前に、われわれの形而上学的物語を要約しておきます。それは、「最初の言語音が沈黙の深みから湧出するという事態を記号系の再帰的動き(recursive move)と見なしうる」という命題にまとめることができます。 公園に舞い降…

言語の実像を作り直す (3)

4 正統的言語探究が描出してきた言語イメージに拮抗しうる、ほとんど唯一の言語の像を提出した者の代表格として、メルロ=ポンティ(M. Merleau-Ponty)をあげることができます。 彼によれば、正しく概念化された限りでの発話――彼はそれを「語る発話」(parole p…

言語の実像を作り直す (2)

〔この講演で理論的ターゲットにしたのは、あくまでもであって、ではない。単一の言語音では言語と呼びうるような記号系にはならない。大雑把に言うと、言語とは語彙と文法のセット(ソシュールのいうとしてのラング)なのである。この講演の趣旨は、言語以…

言語の実像を作り直す (1)

〔すでに公にした、一連の「言語のイメージングをやり直す」(9日分)という考察を1時間程度の講演のスタイルでまとめてみました。以前の記述に比較して打ち出したい論点が鮮明になっていればいいのですが。〕 初めに私の問題意識について簡単に述べましょう。…

、隠すことによって顕示する記号の形態

古い写真だが、D.リンチ監督の『エレファント・マン』を見たときのショックはいまだに覚えている。 エレファント・マンことジョゼフ・ケアリー・メリック(Joseph Carey Merrick、1862年8月5日〜1890年4月11日)は、ヴィクトリア王朝時代のイギリス社会で著名…